2017/ Hisashi Ezura / zokei@ezura.tokyo

2017年09月22日 更新

INDEX

 

講義の概要

日本のアニメーション制作現場に「デジタル」〜すなわちコンピュータが導入されてから20年の歳月が経過しました。一方で、2003年の 「地デジ」の試験放送から10年以上が経過、そして「地デジ」完全移行から6年が経過し、家電メーカー各社は「4Kテレビ」の普及を促進し、国営放送NHKは「8Kの本放送」を2018年12月から開始するとアナウンスしています。2020年頃になると、「地デジ」移行の頃に購入した各家庭のテレビの経年劣化に加え、4Kテレビの価格が普及価格帯へと移行し、東京オリンピックなどの大イベントに合わせて、ますます「4K」「60p」「HDR」などの次世代映像フォーマットを視聴する機会が増えていく事でしょう。

iPhone8では4K60pの実写撮影が可能となり、NetFlixやAppleTVなどの映像配信事業では4Kコンテンツが流通しています。ブルーレイディスクは、4K60pHDRの「UHD BD」タイトルが発売され、「円盤事業」の巻き返しも図られています。

今後数年の短い期間で、私たちの身の回りの画像・映像技術は、「高品質が当たり前の時代」へと変わっていきます。

家族や友人、可愛い猫や犬、旅先の情景など、あらゆるものが4K60pなどの新しい映像品質基準で手軽に撮影されるようになるでしょう。ちょうど現在、皆がスマートフォンで手軽に気軽にHD映像のムービーを撮っているように。

下図は、昔のテレビ放送から、8K放送に到るまでの、ビデオ解像度の比較です。

2017年現在、注目すべきは、単に画面のピクセル密度だけでなく、秒間フレーム数や発色のレンジまで大幅に拡張された「総合的な高品質化」へと技術が移行し始めていることです。

 

一方、アニメーション制作現場全般では、フィルムカメラ時代の制作手法を踏襲したままの状況とは言え、「デジタル作画」の普及も確実に進行し、様々な作品制作で「オールデジタル」、つまり、全ての工程にコンピュータを用いて制作する事例が増えています。

しかしながら、2017年現在の状況は、あくまで「今までの方法をコンピュータへと移行させた」内容であり、制作運用においても、映像表現においても、コンピュータの豊富な能力を十分に引き出しているとは言えません。

実際、旧来の制作手法の影響を色濃く引き継いだ現在の制作現場においては、新時代のコンテンツ制作にニーズに対して全く対応する事ができず、ビジネスチャンスを逃し続けている現状があります。

 

そうした状況の中、手で一枚ずつ描いて動かす方法とは違う、絵を「コンピュータで動かす」技術〜キーフレームアニメーションやカットアウトアニメーションと呼ばれています〜が欧米を中心にして発展しています。こうした新しい技術は、未来の映像フォーマットにも柔軟に対応できるため、今後どんどん技術の蓄積が進み、徐々に台頭してくると予想されます。

動きを一枚一枚ずつ描いて動かすのではなく、描いた絵を元にしてコンピュータで動かす手法は、今後の映像フォーマット=秒間60枚や120枚の膨大な枚数の動きにも、完全に対応できます。例えば、上図の金魚の動きは、カットアウト・キーフレームアニメーションでも実現可能です。

 

先人たちが築きあげた商業アニメーション技術の蓄積に依存し続けるのではなく、アニメーション技法の根本的な技術革新、言うならば「アニメ制作の再発明」が求められる時代が、すぐそこまで迫っています。コンピュータの性能を十二分に引き出し、今まででは考えられなかったようなアニメーション制作を実現するのは、20〜30代の若い人々が中心となるでしょう。

今までのアニメーション作品は、「フィルムに撮影する都合」に縛られ、その制限の中で技法が発達しました。フィルム撮影台が消滅した今、そして、昔では想像もできなかったハイスペックの映像フォーマットが現実となった現在、我々はどのような技術体系をアニメーション制作において構築し、実践していくべきでしょうか。

本講義ではそうした未来の展望を鑑みつつ、同時に、映像表現を「デジタルという手段」でどのように具現化するか、課題制作を通して探りながら、実践していきます。

 

アニメーションの絵作りの歴史

最新のアニメーション技術を実際に使いこなすには、今までの技術進化の経緯を踏まえておくと、技術の使いどころが解るようになってきます。

現在のアニメは、極度に単純化して誇張したものから、空間の微細なニュアンスまで表現するものまで、多岐に渡りますが、技術から蓄積してきた成果と言えます。

つまり、アニメーションの絵作りの歴史を学べば、映像表現を縦横無尽に使うこなすことも可能となり、表現の応用や発展も可能になります。

実作品を例に、絵作りの歴史を解説します。

 

アニメーション技術の未来

この講義のタイトルである「デジタルアニメーション」とは、どのようなアニメーションの形態を指すのか、現在までの技術の経緯を解説し、未来にはどのような進展が予想されるのかを、映像実例と共に解説します。

現在は、iPhone8などのスマートフォンなどでも4K60pの実写撮影が可能になり、家庭のテレビは以前のHDテレビの買い替え時期に4Kテレビへとリプレースされ、映像配信事業では4KのHDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)のコンテンツをどんどん投入しています。

そうした世界規模の映像技術の進化に対し、今後のアニメーション制作が進んでいく道も、様々な角度で探っていきます。

 

課題制作スタート

本講義では、印刷物を一切使用せず、このWebサイトで概要を説明し、実際の技術解説は実際にコンピュータを操作しながらおこないます。毎週、講義当日までに、Webサイトが随時更新されます。

講義は「実例からメカニズムを学ぶ」スタンスにて進めていきます。

 

この講義の名称である「デジタルアニメーション」は、今や作画にまで及ぶ「アニメーション制作全行程」を指し示すと言っても過言ではありません。風呂敷を広げると途方のない広がりへと発展します。

本講義では、時間枠のキャパシティを鑑み、「コンピュータを直接的に使って、どのような映像表現が可能か」を、講義の重点とします。

映像表現を体感するために、絵素材を組み合わせて「コンポジット」作業をAfter Effectsで実践しますが、その際、映像効果を実感しやすいように、「自分のキャラ」の絵素材を用います。

 

まずは、この講義で使う、オリジナルの止め絵のキャラクターを作ります。

自然なポーズで立つオリジナルのキャラクターを「バストサイズ」にて描き、講義の素材とします。まずは、ラフ画を描いて、イメージを固めます。

自分の考える自由なキャラデザインとポーズで構いません。ただし、数秒間止まっていても自然なポーズを考えてください。背景を描く必要はありませんが、立ち姿の雰囲気を見るために仮に背景を描いて「感じ」を掴んでも良いです。

 

その次に、課題のコンポジット作業で使用できるように、適切なサイズで清書します。

線のニュアンスに細心の注意を払いながら、丁寧に描きます。

 

この講義の課題制作において、適切な寸法は、キャラクターの縦の寸法が3000px前後になることです。

 

紙で描く場合は、以下の基準で描きます。

 

タブレットで描く場合は、以下の基準で描きます。

 

上図のJPEG画像は、いずれも適応サイズの実寸になっていますので、画像を手元に保存して、ガイドとしても使えます。

 

以前の講義のサンプルから

線画を描いて、ペイントして、背景を配置して‥‥という、ありふれた作業段取りであっても、作業に実際に関わる制作者が「作品の世界」を強く意識すれば、様々なニュアンスを表現でき、作品全体の質感を自在にコントロールできます。

以下は、鉛筆の線画からスタートしても、段階的な作業を適切に進めることで思う通りのニュアンスが獲得できることを、段階的に示したものです。

線画(鉛筆で描いてスキャンしたもの)

 

ペイントした状態(ビジュアルエフェクトなどの効果は未処理)

 

背景と組み合わせて、ビジュアルエフェクトを施した一例。本講義で行う「色彩制御」「光学シミュレーション」「光と影」「ディテールアップ」などを駆使すると、完成画のニュアンスを大きく操作できます。

 

違う趣の処理例。顔の中身のディテールアップをあえて淡白にして、線画の持ち味を活かした表現です。同じ素材を用いても、コンピュータにおける表現技術を駆使すれば、幅広いニュアンスが実現できます。

 

後半の講義では、キャラクター描写や情景描写に関する様々な要素に対する解説と実演をおこないます。

例えば、下図サンプルの作例では、キャラクターのディテール描写や空気感・遠近感の描写の他に、画面全体のカラーニュアンスの調整なども処理しています。色彩制御の技術をふんだんに活用しています。

未処理のキャラクターと背景

 

RGB各色を自在にコントロールできるようになると、自分の思った通りの色彩ニュアンスを導き出せます。また、実写にも共通して言えることですが、コントラストの扱いによって、人物の顔は大きく印象が変わります。講義では、実写や3DCGについても言及し、アニメのみに範囲を限定せずに技術解説をおこないます。

 

本講義ではAdobe社のAfter Effectsをメインに用います。After Effectsで本格的に駆使して、手間をかけてコンポジットすると、今までのアニメの線画の制限から抜け出た描写も可能です。

下図サンプルは2011年前後に4Kでコンポジットしたテスト画像(映像開発)です。当時、来たるべき4K時代における、髪の毛描写のノウハウを得るためにテストしたものです。

元絵は前述のサンプルと同じく、鉛筆画のスキャンですが、処理を工夫することによって、髪の毛の光沢のニュアンスを表現しています。

 

 

課題の採点について

本講義では、課題提出を重視して、成績評価をおこないます。

講義で解説し実践する3つの課題の中から、自分自身で一番出来が良いと思う課題を、講義最終日にサーバにアップしてください。

課題の採点、及び出席日数の加点にて、総合的な採点をおこないます。

採点の基準は、

‥‥など、表現内容を主として採点し、映像データとしての技術的な部分も加味して採点します。

 

提出課題のファイル仕様

課題提出物は完成したQuikcTimeムービーファイル1つのみです。筆記テスト等はありません。ただし、成績の評価に課題提出のQuickTimeファイルを用いるので、必ず提出してください。

完成映像の仕様

ファイルフォーマット

QuickTime形式

ビデオコーデック

Apple ProRes4444

フレームレート

24fps (24.0fps)

または

60fps(60.0fps)

デュレーション

6+0(6+8:カットボールド含む)

ビデオ解像度

1920x1080 (16:9/HD)

または

3840x2160(16:9/4K)

色深度

各色10bit(After Effectsでの設定=16bit・数兆色)/リニア

ファイル名

学生名_学生番号_課題番号.mov

 

提出するQuickTimeムービーファイルにおける、上記の仕様には明確な理由があります。詳しくは後の講義で説明しますが、扱いの容易さと高品質を両立できるフォーマットになっています。

手間を惜しまずに丁寧に作り上げた映像を、できる限りの高品質な「マスター」として書き出す方法も、講義内で順次レクチャーしていきます。